筋肉の知識を深堀りしている方
こんな疑問にお答えします。
今回は、筋肉の基礎知識として、以下を解説していきたいと思います。
- 筋収縮の仕組み
- 筋収縮の種類
- 筋収縮と筋肥大の関係
私は、渋谷のパーソナルトレーニングジム「Shibuya Fitness Sharez」を2015年から運営しており、近年はパーソナルトレーナー養成スクール「Sharezスクール」の運営と講師も勤めています。
スクールでは、解剖学や生理学、バイオメカニクスなど、パーソナルトレーナーとして活動するための基礎知識の講義もあり、それらの講義の内容を整理して、今回のテーマについて解説していきたいと思います。
目次
筋収縮とは?
立っている時、座っている時、運動している時、全てのシーンで筋肉が働いており、筋肉が伸び縮みすることで、ヒトの身体が動いています。
では、筋肉はどのように伸び縮みしているのでしょうか?
筋収縮を理解する上で、まず、筋肉の構造について理解していただく必要があります。
まず、「筋肉の構造」について紹介し、その次に「筋肉が収縮する仕組み」を説明していきます。
筋肉の構造
スーパーのお肉売り場などに並んでいる鶏肉などをよく見ていただくと分かるのですが、筋肉の表面は繊維質になっています。そして、その内側は筋肉の繊維が何層にもなっています。
筋肉の表面は、筋膜という膜に覆われており、その内側は、繊維の束が集まっています。その束の一つ一つを「筋束」と言います。
筋束も、さらに細い繊維が束になっており、その一つ一つを「筋繊維」と言います。
さらに筋繊維も、より細い繊維が束になっており、その一つ一つを「筋原繊維」と言います。筋原繊維が最小単位です。全ての繊維、束は縦長の形をしています。
何本もの繊維が何層にもなっている事で、筋肉は細かい力の調整を行う事ができるようになっており、筋肉は神経からの信号を受け取り、必要に応じてどれくらいの数の繊維を活動させるかを調整しています。
例えば、太ももなどの大きな筋肉は一つ一つの繊維も太く、数も多いので大きな力の出力ができます。また、指などの小さな筋肉は、繊維が細く、数も少ないので、出力は小さいですが、器用に細かい動きができます。
筋肉が収縮する仕組み
筋肉の収縮を生み出しているのは、筋原繊維を構成している「アクチンとミオシン」というものです。
神経から信号が送られると「アクチン、ミオシン」が反応し、スライドして重なり合うことで筋繊維の長さが短くなり、繊維の集合体である筋肉全体の収縮が起こる仕組みになっています。
※アクチン、ミオシン自体の長さが変わる訳ではないです。
一度の信号では弱い収縮しか起きず、信号が高頻度で送られることで強い収縮が起こり、大きな力が出力されます。
- 運動単位:「1本の神経が制御している筋繊維のまとまり」を「運動単位」と呼びます。
- 発火頻度:「信号が送られる頻度」を「発火頻度」と呼びます。高頻度で信号が送られる場合は、「発火頻度が高い」と言います。
筋収縮の種類
筋収縮には5種類の収縮方法あります。
- 短縮性筋収縮
- 伸張性筋収縮
- 等速性筋収縮
- 等尺性筋収縮
- 等張性筋収縮
それぞれの収縮方法ごとのトレーニング種目がある訳ではなく、あるトレーニング種目の動作シーンの全ての局面で、様々な筋収縮の種類が用いられている、というイメージです。
例えば「アームカール」の場合ですと、動作の中で以下の収縮が起きています。
- 短縮性筋収縮:スタートポジションの重りを握って肘を伸ばしている状態から、重りを持ち上げる瞬間に「短縮性筋収縮」が起きています。
- 伸張性筋収縮:持ち上げた重りを、肘の関節を伸ばしながら下におろす際には、「伸張性筋収縮」が起きています。
- 等速性筋収縮:アームカールでは起きにくいです。
- 等尺性筋収縮:持ち上げる動作がキツくなり、止まっているシーンでは「等尺性筋収縮」が起きています。
- 等張性筋収縮:アームカールでは起きにくいです。
「重りを持ち上げて下す」動作を、全く同じスピードで行えば「等速性筋収縮」となりますが、実際のトレーニング時には、少なからず、加速やスピード変化が出てしまうので、正確には「等速性筋収縮」はできません。
また、アームカールの場合、上腕二頭筋に常にバーベルの重さの負荷がかかっていますが、肘の屈曲角度によって、上腕二頭筋にかかる負荷が少しずつ変化するので「等張性筋収縮」とは言えません。
このように、「等速性筋収縮」と「等張性筋収縮」は、実際の筋力トレーニングで実施するのは難しい筋収縮の種類と言えます。
それでは、それぞれの筋収縮について解説していきます。
※パーソナルトレーナーの方向けに、指導時に気をつけるべき点も説明していきます。
短縮性筋収縮
筋肉が短くなりながら、縮むという収縮様式です。筋繊維が縮みながら、力を発揮します。
※短縮性筋収縮は、「コンセントリック収縮」、「ポジティブワーク」とも呼ばれます。
アームカールなどで、肘を曲げて重りを持ち上げる際には、上腕二頭筋が「短縮性収縮」し、重りを持ち上げています。
いわゆる関節を曲げる動きの収縮様式です。
ダンベルやバーベルを持ち上げる際には、鍛えたい部位の「短縮性筋収縮」が起こるよう、お客様には、他の部位をしっかり固定してもらったり、勢いをつけて上げてさせないように注意が必要です。
伸張性筋収縮
筋肉が伸びながら力を発揮している筋肉の収縮様式です。
※伸張性筋収縮は、「エキセントリック収縮」、「ネガティブワーク」とも呼ばれます。
アームカールなどで、腕を曲げて持ち上げた重りを、肘の関節を伸ばしながら下におろす際には、上腕二頭筋が「伸張性収縮」し、重りを下ろしています。
伸張性筋収縮というと、「伸びながら縮む」という分かりにくい意味に感じますが、「筋肉は収縮しようとしてますが、実際には負荷がかかる事で筋肉が伸ばされていく」という状況です。
伸張性筋収縮が、今回紹介する5つの筋肉の収縮様式の中で最も大きな出力ができる収縮様式です。
また、「伸張性筋収縮」の動作によって、筋繊維が大きな負荷で引っ張られることで筋肉痛が起こりやすいと言われています。
「パーソナルトレーナーなどの補助者が、補助しながらバーベルやダンベルを持ち上げ、トレーニングをしている人が下ろす動作だけ耐える」というトレーニング方法があります。
これを「ネガティブトレーニング」と言いますが、これは鍛えたい部位の「伸張性筋収縮」を利用したトレーニングです。鍛えたい部位を追い込んだ状態で、より出力の強い「伸張性筋収縮」を利用して、さらに負荷をかけて追い込むというものです。
よくあるケースは、例えばアームカールですと、「重りを持ち上げる時だけ力を入れれば良い」と誤解していることがよくあります。持ち上げた後のバーベルやダンベルを下ろす際に、重さに任せて下ろしてしまい、力が抜けてしまっているケースがあります。
重りを下ろす際に力が抜けてしまっていると、「伸張性筋収縮」がうまく行われず、筋肉痛も来づらく、筋力トレーニングの効果も落ちてしまいます。
パーソナルトレーニング指導の際には、お客様に、バーベルやダンベルを下ろす動作はしっかり自分でブレーキをかけながら、コントロールされたスピードで行うよう、指示を出すのがポイントです。
等速性筋収縮
一定のスピードでの筋収縮です。スピードが変化しない中で、力を発揮します。
※等速性筋収縮は、「アイソキネティック収縮」とも呼ばれます。
日常生活や自然な動きではなかなか起こらない筋肉収縮様式です。
動作速度を一定にし、その中でどれくらいの力が発揮できるかを測定したり、その力を高める特殊なトレーニング器具があります。
具体的には、油圧式のマシンがこれにあたります。油圧式のマシンは、通常の金属のプレートを負荷にするのではなく、油圧によって負荷をかけるマシンです。
スピードが予め設定されており、そのスピード以上にはどれだけ力を加えても加速しないように作られています。その分、加速させようと大きな力を加えれば加える程、反作用の動きで筋肉に負荷がかかります。
しかし、スピードは変化しないので、関節への負荷などが軽減され、可動域が小さくても負荷をかけることができ、安全に筋肉に負荷がかけれるように設計されています。
等尺性筋収縮
筋肉の長さが変わらない状態で行われる筋収縮です。
※等尺性筋収縮は、「アイソメトリック収縮」とも呼ばれます。
筋肉の長さが変わらないということは、関節運動がない、関節が動かない状態での力発揮ということです。
握力計や、空気イス、壁を押す、プランクなど動かない環境の中で力を発揮する際に用いられます。耐えながら力を発揮する運動をイメージして頂くとわかりやすいです。
等張性筋収縮
一定の力の出力のまま行われる筋収縮です。
※等張性筋収縮は、「アイソトニック収縮」とも呼ばれます。
ケーブルマシンでアームカールをする場合、スタート時も、動作の途中でも、重りを上げきった位置でも、かかる負荷は同じです。
ケーブルの滑車は固定されており、どの方向に引っ張っても同じ負荷がかかるからです。このケーブルマシンの負荷を一定のスピードで持ち上げれば、筋肉にかかる負荷はずっと一定なので、等張性筋収縮と言えます。
しかし、実際は動作中に、肘が動いてしまったり、加速が生じたりと、複雑になってくるので、純粋な等張性筋収縮にはなかなかなり得ません。
チューブトレーニングの場合は、引っ張れば引っ張るほど負荷が高くなるので、等張性筋収縮とは言えません。
筋収縮と筋肥大の関係
どのような筋収縮をすると、筋肥大につながるかを解説していきます。
結論から述べますと、筋肥大を促すには、「できるだけ筋繊維を多く使い、多くの筋繊維に刺激を与えることができるような筋収縮を意識すること」が重要です。
加えて、「成長ホルモン、テストステロンといった内分泌の促進」も考慮する必要があります。
多くの筋繊維に刺激を与える筋収縮を意識することが重要な理由
筋肉は筋繊維がまとまって構成されていますが、筋収縮する際は、必要な力に応じて使用される筋繊維の数が決まっています。
負荷が小さいと使用される筋繊維の数が少なく、負荷が大きいと使用される筋繊維の数が多くなります。
筋肥大を促すためには、多くの筋繊維に刺激を与える必要があり、そのためには意識的に負荷を大きくするなどの対策が必要です。
筋収縮に対して、全ての筋繊維が使われない(刺激されない)理由
では、「なぜ、筋収縮に対して、全ての筋繊維が使われない(刺激されない)か?」ということを確認しておきましょう。
筋肉の伸び縮みの指令(信号)を出している「神経」は、1つの筋繊維に対してではなく、複数本(上腕二頭筋で数百本)の筋繊維を制御しています。この複数本の筋繊維のまとまりが、記事の冒頭で紹介した「運動単位」のことですね。
意識的に多くの神経指令を出すようなトレーニングをしないと、少数の神経しか指令を出さず、結果として、少数の筋繊維しか使われない(刺激されない)ことになってしまいます。
より多くの筋繊維を使うと、筋肥大を促進する成長ホルモンやテストステロンといったホルモンの分泌の高められるという効果もあります。
筋肥大を促すためには、多くの筋繊維を使う(刺激する)ようなトレーニングをする必要があります。
それでは筋肥大の効率が悪くなってしまうので、できるだけ多くの筋繊維を動員するために、大きな負荷をかける必要があります。
筋肥大を意識した運動時間と運動強度
「重い重量でトレーニングすれば筋肥大するのか?」というと、そういう話ではありません。ひたすらに重い重量では、回数をこなせないので、運動時間が短くなってしまいます。
短時間で大きな出力を伴う運動では、筋肥大というよりも、神経的な発達し、筋力アップの効果があります。
反対に、低重量で高回数行うようなトレーニング内容になると、長時間運動を継続するために、遅筋線維が優位に使われ、筋持久力アップの効果があります。
筋肥大には、その中間の運動時間、運動強度が求められます。
具体的には、「8〜12回が限界の重量で、60〜90秒の休息を挟みながら3セットほど行うのがベスト」です。
よく言われる、「10RM×3セットを60〜90秒ほどの休息を挟みながら行うと良い」というトレーニング内容は、使われる筋繊維の数も高められ、60〜90秒の休息時間を入れることで「成長ホルモンやテストステロンなどの分泌も高められる」ので、筋肥大に効果的であると言えます。
※「10RM」とは、「10回持ち上げるのが限界の重さ」という意味です。
まとめ
筋肉は繊維の束になっており、その最小単位の繊維が短くなることで、集合体である筋肉全体の収縮が起こっています。また、筋肉の収縮には様々な種類があり、一つのトレーニング種目でも複数の収縮様式が関係しています。
筋肥大を目的とした場合は、重い重量だけで筋収縮を繰り返すのではなく、筋肥大に適したトレーニング方法を実施することが重要です。
パーソナルトレーナー駆け出しの方は、「お客様がターゲットの筋肉を、意図通りに収縮できているかどうか」という点にしっかり着目して、トレーニング指導するようにしてみてください。
今回のテーマの「筋収縮について」や、トレーニング指導に関して、ご質問や疑問などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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